車いすのままでも、一人で料理が出来るキッチンが欲しいんだよね…。
あるご年配の男性からそんな依頼をいただきました。
実は、元々料理好きだった奥さまが体調を崩され、半身にまひが残ってしまったとのこと。
それ以来、ご主人は車いすの奥さまの代わりににキッチンに立ち、毎日の食事を用意されるようになったのだそうです。
ただ、元々お料理が大好きだった奥さま。
本当は以前のように料理がしたい。
時には介護されているだけでなく、自分の食事を自分で準備できたら…
そんな奥さまの気持ちを察して、新しいキッチンを作ってあげたいと思われたのだそうです。
ここまでの話を聴いて、う〜、もうダメ!と思いました。
言葉の端々から、ご主人の奥さまへの優しさがじんわりと伝わってきたんです。
どちらかというとコワモテのご主人だったもので…
すっかりそのギャップにもやられてしまいました。
既存のキッチンの高さは90センチ。車いすでは到底高すぎます。
シンクも深すぎて、覗き込むよう。
そこで、この既存のキッチンの対面に、新しい奥さま用のキッチンを設けることにしました。
元々、既存のキッチンの背面側には、こんな棚がありました。(向こう側がキッチンです)
この棚を一部取っ払って、新たに高さ75センチのシンプルなキッチンをあつらえたんです。
それがこちら。材はカエデです。
車いすで自由に動けるよう、ワークトップ下はスッキリと広くあけましたが、自分の使った食器は自分で面倒をみたいと、コンパクトな食洗機を設けました。
普段は好みの分かれる、引出し式の食洗機ですが、車いすでかがむ姿勢が出来ない今回のようなケースでは、本当に重宝します。
フルオープン式だと、車いすのままでは低くて使いづらいですからね。
シンクも座ったまま膝が入るよう、通常の半分程度の浅いシンクを。
覗き込むようなことがなく、楽な姿勢で使えるんです。
片手が使えないと、いろいろと大変。
水栓も口元のタッチスイッチで、片手でポンと水の出し止めが出来るようにしました。クックトップは1口のコンパクトなIHヒーターです。
ちなみに奥側が格子状になっているのは、その奥にあるファンヒーターからの温風を、キッチンの足下まで招き入れるため。
どこまでもご主人の奥さまへの細やかな思いやりが感じられるキッチンなのでした。
とってもシンプルなキッチンですが、小さなことひとつひとつに奥さまへの愛情が込められていることを感じ、一介のキッチンデザイナーとして一緒にこのキッチンを創らせていただいたことに、本当に幸せを味わいました。
大切な誰かを喜ばせる。
そのためのほんの少しのお手伝いをさせていただけたことが、心から嬉しかったんです。
もっとたくさんの方々に喜んでいただけるキッチンを創っていきたい。
あらためてそう決意をしたσ(^^)でした…!
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